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大阪高等裁判所 平成7年(ラ)261号 決定 1995年6月20日

主文

本件執行抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

別紙抗告理由書記載の執行抗告理由について

抵当権の目的物件につき賃貸借契約が締結された上、賃借人が転貸した事案において、所有者と賃借人とが実質的に同一視される場合、あるいは、所有者と賃借人との間の賃貸借(原賃貸借)が、賃料に対する抵当権の行使を妨害する目的でされ、詐害的なものである場合には、まず、所有者(原賃貸人)と転借人との間に直接賃貸契約が締結されたものと評価し、転借人が支払う賃料にも抵当権者の物上代位権が及ぶものとすることが可能である。この際、実際には原賃貸人と転借人の間で賃貸借契約が締結されているわけではなく、原賃借人と転借人との間の転貸借契約が外形的に存在することにかんがみると、物上代位に必要な差押えの目的を、転貸人(原賃借人)が転借人に対して有する賃料債権(転貸料債権)とすることができると解すべきである。

他方、所有者は賃貸人として、民法六一三条一項により、転借人に対し原賃貸借の賃料額の限度で転貸借の賃料を直接請求することができ、抵当権者は、所有者(原賃貸人)が転借人から直接受けるべき金銭に対して抵当権を行使することができる。この直接請求権の額は原賃料額に限定されるが、冒頭掲記のような場合には、直接請求権の額(原賃料額)を転貸料の額と同一のものと認めることが可能であり、所有者は、転貸料を直接請求権相当のものとしてそのまま受け取ることができる。そして、転貸料債権の存在が直接請求権の前提となつていることにも照らすと、この場合、抵当権者は物上代位の前提として、転貸人(原賃借人)が転借人に対して有する転貸料債権を直接請求権と実質的に変わらないものとして差し押さえることができるものと解される。なお、直接請求権を根拠にして、抵当権者が転貸料に物上代位するときには、転借人は、民法の前記規定により転貸料の前払をもつて原賃貸人に対抗できない場合があることになる。

いずれにせよ、賃料に対する物上代位については、賃貸借と抵当権設定の先後を問わず、これを肯定するのが判例なので(最高裁第二小法廷平成元年一〇月二七日判決・民集四三巻九号一〇七〇頁)、前記のように抵当権者が転貸料債権を差し押さえることが可能な場合には、原賃貸借及び転貸借がされた時期と抵当権設定の時期の先後によつて、その可否を左右すべきものではない。

記録及び関係資料によれば、本件抵当権の目的建物の所有者(原賃貸人)である協和地所株式会社の代表取締役と原賃借人兼転貸人である抗告人の代表取締役は、同一住所に居住している夫婦であること、両名は以前、それぞれ他方の会社の取締役に就任していたこと、両社は総合不動産企業体の協和グループに属するものとして、案内書に自社紹介をしていることなどの事実が認められ、これらによれば、両社は実質的に同一の会社と認められるので、所有者(原賃貸人)と原賃借人(転貸人)を同一のものと評価できるか、あるいは原賃料額を転貸料額と同一のものと認めることができる。したがつて、前記のとおりの理由により、抵当権者である債権者(抗告の相手方)は、抗告人を債務者とし、転借人らを第三債務者として、抗告人の第三債務者らに対する転貸料債権を差し押さえることができるものというべきである。

抗告人を債務者とした原決定は相当であり、論旨は採用することができない。

(裁判長裁判官 上野 茂 裁判官 竹原俊一 裁判官 塩月秀平)

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